So-net無料ブログ作成
検索選択

Харваач ! XXIX

草原.gif

馬の脚が、まだかまだかとせかしている。
絆されて、ほんの僅かでも心を動かしたなら、こいつはすぐに飛び出すだろう。
ゲルの前の斜面をゆっくり下りながら、せめてもう少し足場の良いところまでと、懸命に心を殺した。

“そろそろいいだろう”

瞬間、馬は弾き出されたように駆けだした!
あっという間に帽子が飛んだ、が、かまっていられない。
スピードが上がるにつれ、地鳴りのような蹄の音も、後ろに下がっていく。

「チョォ!」

私は気持ちで負けるまいと、なおも馬を追った。
低くなだらかに続く丘の間を走っていくと、やがて前が広々と開けてきた。
このまま地平線を目指し、 “外海” に飛び出したい衝動に駆られた。
なにしろこいつは、一度で数十キロもの距離を走りきる脚と心臓の持ち主だ、私のお付き合い程度なら、べつにどうということはない。
しかし、うっかり遠くまで行って、万が一、放馬してしまったら厄介なことになる…。
思い直して、右手の最後の丘へ馬の鼻先を向けた。
馬は素直に方向を変えると、スピードを落とすことなく、斜面を一気に駆け上がった。
その力強さに舌を巻いた。

“こんなパワフルな馬に、子供たちが乗るなんて!”

step1.jpg

丘の上に立った瞬間、見渡す限りの平原が目に飛び込んできた。
この雄大な景色の美しさには、心のどこからか、幽かに湧いてくる懐かしさと、人の命なぞ、容易く吹き消してしまうような恐さがある。

すぐに少年が追いついてきて、手には私の帽子があった。

“その帽子、君にあげるよ”

そう手振りで示すと、少年は帽子を深々と被って、あごをクイッと上げた。
馬はもう落ち着いていた。私たちは並んで丘を下りて、地平線に向かってゆっくり進んでいった。
少年は鞍無しで股が痛くなるのか、時々馬のお尻に座ったりしている。

「いい馬だね」

馬を指差して、親指を立ててみせた。
少年は笑顔で応えると、馬に「チュッ」と小さく声をかけて、その腹を軽く蹴った。


コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL:
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。