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Харваач !  XXXIII

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帰りの車中、マギーは黙ったまま、一言もしゃべらなかった。
気分転換のつもりがかえって逆効果になってしまった。そもそも、彼女にとって弓も銃もたいした違いは無かったかもしれない。ともかく、その穴埋めのつもりで夕食に誘った。
ただ、なにを食べるかは、私のほうで決めた。

「和食ですか? 大好きです! ありますよ、お店」

和食と聞いて、マギーは目を覚ましたように喜んだ。
元教官の男と別れてタクシーに乗ると、彼女は運転手に行き先を告げ、後部座席から身を乗り出したまま、先を急ぐように前を見ている。

「領事館にいた頃、上司と一緒にモスクワに出張したんです、そこで日本料理のお店に入ったんですけど、お味噌汁がね、ぜんぜん出汁の味がしなくてがっかり…」
「出汁の味がわかるの?」
「わかりますよ!!」

マギーは大真面目だが、妙な会話だと思った。
ウランバートルのオンボロタクシーの中で、まさかモンゴル人から、モスクワの味噌汁の批評を聞くなんて、思いもしなかったからだ。

“世界って、案外狭いな…”

店に着いて、和服姿のモンゴル人の仲居さんに、マギーが特に好きだという鮪の握りと巻物をたのんだ。

「そうそう、今日一緒だった男の人が、彼、冬にまた来てくれないかなって、オオカミ
狩りに付き合ってほしいんですって」
「教官とオオカミ狩り?…冬のモンゴルも楽しそうだね」

光栄なお誘いだ、でもマギーは、

「冬のモンゴルは寒いよぉ」

その言い方が年寄りじみていて可笑しかった。
彼女が留学時代に世話になった、“日本のお母さん”の姿がふと目に浮かんだ。

「私はブリヤート人です」

店を変えて少しお酒が入ると、マギーは自分のことをいろいろ話してくれた。
両親の離婚、日本での留学生活、歳は私のちょうどひと回り下で、同じ辰年生まれだと。
そして思いもよらぬことが、彼女の口から飛び出した。

「今日、射撃場であなたが開いたパスポートを見てびっくりしました。
 私たちは同じ名前だったんです」

一瞬、何のことだかわからなかったが、彼女の本名は、モンゴル語で私と同じ“昇”を意味し、マギーというニックネームは、その頭文字からきている。
ちなみに、モンゴル語でも、“昇る”と“登る”は違う。

マギーの言葉は、見事に私の胸のど真ん中を撃ち抜いた。
幸い致命傷にならずにすんだのは、やはり、彼女が私には若すぎたおかげだ。


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