So-net無料ブログ作成
検索選択

Харваач !  XXXIV

PAP_0743.jpg

帰りのタクシーのなかで、マギーが言った。

「私だって、お味噌汁つくれますよ」
「…へぇ、それはすごいね、えらいね」

私の気の無い返事にすかさず、

「モンゴル人のくせに出汁の味がわかるのかって、さっきそう言ったのに?」
「……、そんな言いかたしてないよ」

ブリヤートの龍女はやはり向こうっ気が強い。
もっともそうでなければ、彼女の語学力はここまで達し得なかっただろう。私がこの国で彼女を頼りにしているあいだ、そのちいさな逆鱗から目が離せないのは、課せられた義務のようなものだ。

「私、よく日本人に間違えられるんです、日本人からそうは見えないでしょうけど…」

ブリヤート人と日本人の血が近いことは前に触れたが、彼女の顔立ちなら、どこへ行っても日本人で通せるだろう。しかしそれは、一概にいいこととはいえないようだ。

彼女が以前、アジアのある国へ旅行した時のことだ。
失くし物をして困っていたところへ、地元の人が親身になって一緒に探しまわってくれたのだが、話しているうちに彼女が日本人でないことが知れると、その人は探すのをやめて、いなくなってしまったのだという。

「そのときの態度の変わり方がね、すごく極端で…」
「どうしてだろう?」
「…日本人なら、お礼してもらえるからね」

と、寂しそうに言った。

「日本人になりたいと思ったことある?」

マギーは答えなかった。今思えば、デリカシーの無い質問だった。

私はこの日以来、弓と馬のこと以外はマギーに任せることにした。
彼女の勧めで、博物館、遊園地、市場、伝統音楽、映画館などと、方々見て歩いた。

博物館では、彼女がかつて国の客人を案内したときのような解説付きで展示品を観て、映画館では、日本語字幕の無い(当然だが)ハリウッド映画を同時通訳してくれて、その知識や英語力に舌を巻いたものだ。

帰国の前夜、ザルチュードホテルの前でタクシーから降りるとき、

「明日の朝早いけど、空港までよろしく頼むね」

私はそう言って、使い残したトゥグリグ札をすべて、迎えのタクシー代としてマギーに渡した。

「え、こんなに?どうして?今度来たときに使えばいいのに…」
「いや、いつ来れるかわからないし、ほら、俺は“日本人”だから」

戸惑う彼女に冗談を言って、強引に握らせた。

翌朝、私は荷物を整えて、ホテルのロビーでマギーが来るのを待っていたが、時間を過ぎても、彼女は姿を見せなかった。



コメント(0)  トラックバック(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この記事のトラックバックURL:
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。